夏なのにシュトレン?

  上はいずれもシュトレンの写真ですが、3枚目の茶色い断面にアレ?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。フルーツやナッツたっぷりの2枚は、いかにもシュトレンらしく、クリスマスという季節まで思いおこせるようです。

  タンネでは過去28シーズン、クリスマスのシュトレンを作り、その総数は20万本を優に超えました。毎年毎年、10月ともなればシュトレンの味わいを思い出してご注文をくださる多くのお客様がいらして、お久しぶりですお元気でいらっしゃいましたか?と言葉を交わすのはとても有難く幸せなことと思っています。

  しかし実は、シュトレンというのは馴染みの深いクリスマスのアレ、だけではなくいろいろなレシピがあります(クリスマスのシュトレンにも幾つかのレシピがあるのですが、それはそれとして)。モーンシュトレン・ヌスシュトレン・クワルクシュトレンというのは代表的なところですが、いずれもメインの材料をドライフルーツやアーモンドの代わりに青ケシ・ヘーゼルナッツ・フレッシュチーズを使うタイプです。特に季節を限定しているものではなく、真夏の店先に無造作に並べられていたりします。

  では「シュトレン」とはいったいどんなパン(菓子)を指すのか。いろいろ調べてみたところ、イースト発酵菓子(パン菓子)であることと、マジパンとバターがたっぷり配合されているレシピであること、日持ちする理由はある程度の大型に作ることと何より甘い(砂糖も多い・・・汗)である上に焼成後に周りを溶かしバターとお砂糖で何重にも覆うこと、主にこの3点がシュトレンがシュトレンたる特徴だと分かりました。

  それ以来、その特徴を大切にしながら、タンネならではのアレンジに取り組んできました。上の写真のなかでも殊更茶色い3枚目はチョコレートのシュトレン。クリスマスが過ぎてますます寒さが厳しくなる時期に、体を温める作用があるシナモン・クローブ・カルダモンなどのスパイスはそのまま、チョコレートをたっぷり効かせ、アーモンドをスライスに替えてダイズのザクザクした食感のものを配合しました。最後にたっぷり振りかける粉糖の優しい甘さとの相性もよく、甘〜いけどチョコレートの豊かな薫りとジワジワくるスパイスの風味でいくらでも食べられそうなシュトレン、になりました。

  となると次々アイディアが浮かびます。なかでもチャレンジしたかったのはクリスマスとは真反対の季節、夏らしいシュトレンのアレンジでした。フレッシュな酸味が特徴で色も鮮やかな果物が実る季節でもあります。ベリー系をはじめいろいろ試した結果にできあがったのが現在オンラインショップで販売中のサマーシュトレン。クリスマスタイプのものと同様にオレンジとレモンのピールを使いますが、干しぶどうに替えてクランベリーとブルーベリーを配合しました。上に載せたたっぷり厚切りのオレンジスライスも特徴的で、果実の甘さも酸味もいっぱいに楽しんでいただけるようになりましたので、あえてお化粧には粉糖ではなくグラニュー糖を使いました。せっかくのザクザクした食感をさらに楽しんでいただけるよう、細長い形状に変えて小さな断面になったため、いつものシュトレンより厚切りをして召し上がっていただくのもお勧めです。

  なんだかブログというよりは「ザ・シュトレン広告」のようになってしまいましたが。これは一例にすぎず、ドイツパンはいずれもアレンジの幅がものすごく広くて、懐が深いです。基本の配合や製法のポイントを守れば、どのようにもアレンジすることができて、次々とレシピが増えます。これがドイツパンの種類が数千とか、いや万は硬いとか言われる所以だと思います。中世から現代に至るまで時代とともに味わいや楽しみ方を工夫してきた歩み、とも言えそうです。今のこの東京にいるからこそ生み出せる「ドイツパン」というものも確実にあって、サマーシュトレンはまさにその一つ。やっぱり宣伝みたいになってしまったけれど、ドイツパンて楽しい。夏もシュトレン、是非ご賞味ください。